その塀は半ば崩れていて、中身までよく見えた。中には柱も貫も通っていなければ、瓦を重ねて積んでもいなかったのである。ただの土の塊の上に、瓦をひょっとのせただけの、驚く程に単純で原始的な塀。しかも、やたらに厚い。さらによく眺めれば、四○センチから五〇センチ角の大きな土のブロックをひとつひとつ下から積み上げて作ったようで、そのブロック同士のジョイントの線か残っているのである。土に関してわからないこと、困ったことがあると、いつも相談する相手がいる。
[参考情報]
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左官職人である。早速、件のぶ厚い塀の前から職人さんのケータイヘと電話をいれた。もともとは淡路島で仕事をしていた職人さんだが、今は日本中を飛び歩いて仕事をしているので、ケータイでしか連絡のとりようがない。「すごく不思議な土塀が、今、目の前にあるんだけど、土だけでできてて……」「そりゃ、日干し煉瓦だね」。即答があった。一瞬、耳を疑った。日干し煉瓦といえば、砂漠の建築の材料で、アドベともいう。木も生えなければ石も手にはいらない砂漠や乾燥地帯の民が、家を作る時のやり方である。粘土質の土を捜してきて、草やワラを混ぜ、水を混ぜて練ってから太陽に干すのである。強度を出すために、家畜のフンや血を加える地方もある。アメリカでもプ平ブロ族と呼ばれるネイティブーアメリカンの種族が、アドベの工法で家を作っていた。ネイティブーアメリカンは一般には定住型の家を作らない人々であった。木の枝を組んで、そこに動物の皮を貼ったテントのような仮設型の家を作り、放牧型のライフスタイルを送るのが一般的であった。アドベの家に定住するプエブロ族は、彼らの中では「変わり者」で、それゆえにプエブロ(家)族とあだ名されていたのである。そんな乾いた場所で生まれ、乾いた場所に伝わってきた原始的工法が、この緑豊かな日本にどうやって伝わってきたのだろうか。しかも、この豊浦では、塀だけではなく、日干し煉瓦を積み上げて作った倉庫がいくつも現存していたのである。塀も蔵も、上を干した塊を積み上げただけの単純な構造であるにもかかわらず、数えきれないほどの地震や合風にしっかりと耐えて、今日でもしっかりと用をはたしているのである。